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クラシック

Tue May 25 2021

ぼくの仕事の大部分は自宅でやっても問題ないからCOVID-19が出てきてからは半分以上自宅で作業しているんだけど、リテラシーに関係なくやっぱり対面コミュニケーションが強い場面というのはある。業種にもよるけど、一定以上の年齢になると「やっぱり会って話さないとね!」みたいな人が増えてきて、リモートじゃない顔を合わせての会議がちょこちょこ入るようになってきた。
いわゆる日本企業の「会議」は無闇に参加者が多く発言するのは数人だけ、みたいなのがほとんどだから大概現場に出向いても不毛でしかなく、正直リモートの方が助かるんだけどね。個人的には作業中に気軽に話しかけられるとか、「雑談」と「仕事の相談」の境目を気にせず声をかけられる環境、というのが大事だと思ってるので、どうせ週一回顔を合わせるなら会議やるよりただの作業日にした方が良いと思ってる。(この環境を工夫してリモートでつくってる人たちがいるのも知ってるけど、それこそ一定のリテラシーや文化が要求されるしぼくは外部の人間でコンサルでもないからこういう提案はしない。)
取引先がいくつかあるから、現場での会議や作業とリモート会議が入り乱れる日もあり、カフェで中途半端な空き時間を潰したりやむなくリモート会議に参加することもある(ほとんど喋らないやつに限るが)。たまにこういう日があるだけでめんどくせ〜!ってなるから、今の大学生なんかはほんと大変だろうな。

昨日もそんな感じでチェーン店のカフェに行ったんだけど、チェーン店なのに雰囲気が老舗の純喫茶でびっくりした。老舗の純喫茶、知らないけど。
雰囲気、というか従業員のクオリティが異様に高い。このご時世だし都心のオフィス街とかでもないから空いており、店長らしき人と大学生のアルバイトっぽい人の2人だったんだけど、店長は店長というよりマスターという風格で、物腰柔らかな大ベテラン、バイトは真面目でフレッシュな好青年って感じ。店長とバイトの雑談もなかなか良かった。そもそもおじさんと若者がカウンターの中で楽しげに雑談してるだけでポイントが高い。

いい店だな〜とリラックスして作業してたら、「チャットってどこからいくの?」「全然分からないのよ」と、女性の少しキツめの声が耳に入ってきた。しばらく聞き流していたが、会話が客同士のものとか電話の声じゃなくて、客がバイトの好青年にスマホを見せながらひたすら質問しているということに気づいて衝撃を受けた。いくら空いてるとはいえ、チェーン店でバイトにそんなこと聞く……?
好青年がほんと好青年で、一切応じる義務のないはずの質問に懇切丁寧に対応していた。受け答えもしっかりしてるし、バイトにありがちな過剰な敬語もなく適度な丁寧さで話すし、レベル高すぎ。思わず聞き入っちゃった。

話の全容はこうだ。
女性の使っている某大手国内家電メーカーのブルーレイレコーダーが壊れてしまい修理したいんだけど、メーカーのページを見てもどこに連絡したらいいんだか分からん。分からんからとにかくページに書いてある電話番号に電話したら長々と待たされ、ここじゃないですと別の番号を教えてもらいそこにかけて長々と待たされ、それを数回繰り返したのち「電話での相談は受け付けてないのでチャットから相談してください」と言われた(「申し訳ないけど怒鳴っちゃった。」)。しかしそのチャットにはどうやって行けばいいのか分からん。どうしようもないので娘にLINEで聞いてみたが結局よく分からない。八方塞がりになったからここに来て相談している。(なんで……?)
横で聞いていただけのぼくがこんだけ内容を把握できてるのは、つまり、好青年の聞き取り能力がめちゃくちゃ高かったからだ。この内容を聞き出して把握するのに30分ぐらいかかってたと思うんだけど、これができる人は中々いないんじゃないか。そもそも好青年はこんなに頑張る必要が全くない。最初の5分ぐらいはひたすら「チャットの開き方が分からない」を繰り返していて、さっぱり要領を得ないから好青年も店長も「LINEのこと?それかLINEのグループチャットのこと?」となってたし、LINEじゃないと分かってからも何かしらのチャットアプリなんじゃないかと思ってしばらくそれっぽいアプリを探していた。それで10分以上格闘しても何も解決しないから女性もいったん諦めたんだけど、好青年が粘り強く話を聞き出してそもそもそのチャットは何のためのものなのか把握し、そのチャットはアプリではなくブラウザで開くウェブサイト上で開くものだと突き止めたのだ。感動した。
好青年のファインプレイでチャット画面までたどり着いたのだが、どうやらチャット画面で最初に修理したいモデルを選択する必要があるらしい。「モデル名メモしてこればよかった!とてもじゃないけどこの画面に自力でたどり着けないからまた明日メモして聞きに来るわ」となって終了。好青年がブラウザの履歴機能を頑張って教えていたが、「無理、明日来るわね」と一蹴されてしまった。

全部終わったあと、女性は「ごめんなさいねこれじゃ営業妨害よね」と追加注文をしていて、別にめちゃくちゃ非常識な人とかではないんだよなぁ、としみじみしてしまった。ぼくも心の中で好青年に拍手を送りながらデザートとコーヒーのお代わりを頼んだ。
自分の親がスマホの設定や使い方に苦戦しだした頃、たぶんぼくが大学入った頃だけど、相談されるたびにイライラして受け答えしていた。それがある時からああ親も老いたんだな、老いとはこういうことなんだな、と納得してイライラしなくなると同時に寂しくなった。そして自分もいつか老いるんだなと思って怖くなった。それから歳を重ねて、いつかではなく気づかないうちに老いてきちゃってるなぁ、になってしまった。ほんとに恐ろしい。
最近ショックを受けたのは、ぼくがiPhoneのアラームに設定している音のほとんどがいつの間にか「クラシック」というカテゴリに押し込まれていたこと。iPhoneはソフトバンクでしか使えなかった3GSの時代からずっと使ってるんだけど、アラームの音色とか、いじらなくなっちゃってたんだな。ずっとiPhoneだとガラケーの時代と違って、機種変のたびにどんな音があるのかなって試す気になりづらいのはあるけど、それにしても、自分の使ってる音が全部「クラシック」にまとめられていて、しかもしばらくその事に気づいてなかった、というのは中々にショックだった。バイブのパターンを自作できるっていうのもそのとき初めて知った。いったいいつから変わってたんだろう。

老いていくのはしょうがないものと受け入れるとしても、なるべく遅くあってほしいし、どんなに年をとっても好奇心を失わないでいたいなぁ。
ここ数年ネットでネタにされて最近テレビでも紹介されたらしい「おじさん構文」も、こうやってもがいて、なんとか今に追いつこうとした結果生まれてるんだろうなと思うと無邪気に笑えなくなってくるわ。

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